好きになったのは、生徒か、幼なじみか。





夏野くん。
見るからに影の薄そうな男の子。
陽の光に当たることを知らないような白磁の肌には、漆黒の学ランがよく映える。
しかしじっと彼を見つめても、黒く長い前髪がじゃまをしてその瞳をうかがうことはできない。



「夏野ってすごく地味で、根暗で、じめじめしてて、いてもいなくても変わんないの。ただそこにいるだけで存在感がまるでないっていうか」
「根暗でじめじめしてるって、そう考えれば夏野とナメクジってなんか似てるね」
「ナメクジってよりカタツムリじゃない? あいつ、誰にも心開かないし」
「言えてる。自分の殻に閉じこもってばかりだもんね。誰かと話してるところだって、まだ一度も見たことないし」
「一日中黙ってなに考えてるんだろ。変な妄想してたりとかするのかな」
「やだ、気持ち悪ーい」

「陽花」                  
         「……雨月」
「……友だちは、いるの?」
「いそうに見える?」
「……見えない」

「いじめられてるわけじゃ、ないのよね」
「だいじょうぶ。陽花が心配するようないじめは、なにもないよ」

「おれは、ただの、空気なだけ」


ずきずき、ずきずき。ずっと胸が叫んでいる。
なんで赤くなるの。なんで嫌だって突き飛ばさないの。なんでそんな顔を見せるの。
なんでなんでなんで。
……知らない。こんな気持ち、わたしは知らない。
ああ、なんか、もう――全部、嫌だ。



「思い出したんだ。あのときのこと、陽花は忘れた?」


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